私の本音は、あなたの為に。
数時間が経ち、私とママは昨日も行ったはずの美容院へ向かった。


「すみません、髪の毛が伸びてしまったので、大体ここら辺まで切ってもらってもいいですか?」


店内へ入ったママが、店員さんにそう頼み込む。


「あっ、待って。私が言うから」


今にも“男”という言葉を出してしまいそうなママを私は止め、店員さんを見上げた。


「あの……。ボーイッシュな髪型にして下さい。…ボブヘアーでお願いします」


「はい、分かりました」


その店員さんはにこやかに頷き、奥で床を掃いている美容師さんに私のリクエストを伝えた。


「はい。…じゃあ、こちらに来て下さい」


その男の美容師さんは、すぐに私の事を呼んだ。


「勇也、私は買い物をしてからまたここに戻ってくるから。早く終わってもここで待っていてね」


「うん、じゃあね」


私は軽くママに手を振り、美容師さんの居る回転式の椅子に座った。


「じゃあ、どの位まで切るか確認しますね……あれ?」


鏡越しに私の顔を見た美容師さんが目を丸くする。


「え?……あっ」


その美容師さんの顔を見て、私も声を上げた。


何故なら、その美容師さんは、昨日私の髪の毛を切ってくれた人だったから。
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