私の本音は、あなたの為に。
「…昨日の髪型、気に入りませんでしたか?」


美容師さんは、私の髪を軽く濡らしながらそう尋ねる。


「いえ、そういう訳じゃ、なくて…」


何て説明すればいいのか分からなくて、私は口ごもる。


「……えー、ボーイッシュで、ボブヘアーなので…。こんな感じでしょうか?」


私の体にまとう拒絶のオーラを感じたのか、美容師さんは話題を変える為に何処からともなく雑誌を取り、ぱらぱらとページをめくってある女性の髪型を指差した。


「いや、この女性の髪よりももう少し切って下さい。…男っぽい髪型でお願いします」


「男っぽい髪型、ですね?」


私の言葉を、美容師さんはそのままオウム返しに尋ねる。


「はい…。短く、切って下さい」


これが、私の頑張って決断した結果。


「はい」


美容師さんは私の一部の髪の毛を留め、早速切り始めた。



チョキン…チョキン……


テンポよく響くハサミの音と、それに比例するように床に落ちる私の髪の毛。


(あっ、肩より短い…)


床を見ていた私は、顔を上げて鏡を見てそんな事を思う。


(髪の毛は女の命だから、肩より上に切りたくなかったのに…)


私は、今更そんな事を考える。


(私、花恋と約束しなかったっけ?短く切りすぎないって…)
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