私の本音は、あなたの為に。
親の笑顔を見る為なら、私はいともたやすく親友との約束も破ってしまう人間だったのか。


私は、私がそれ程弱いだなんて知らなかった。


兄の背中を見て育った私は、兄と同じ様に強いと信じていたのに。


兄が居ないと、すぐに弱くなってしまうなんて。


初めて知った、自分の弱さと悲しさ。


(私って最悪…。花恋、ごめんね…!お兄ちゃん、ごめんね…!)


どんどん変わっていく私の髪を見ながら、私は下唇を噛み締めて謝り続ける。


(ごめんね、ごめんなさい…)



ツーッと、私の必死の想いが一筋の涙となって頬を流れた。


(こんなに早くに約束を破ってごめんね、花恋。嘘つきでごめんね、口だけの人間で、ごめんねっ…)


私は、両手を強く握り締める。


泣いた事によって、美容師さんの髪の毛を切る邪魔にしたくなかったのに。



「…大丈夫ですか?」


気付くと、ハサミの音がいつの間にか止み、美容師さんが心配そうに鏡越しに私の顔を見ていた。


「っ…ごめんなさい、大丈夫です。続けて下さい」


私は、極力声を震えさせないように気を付けながらそう言う。


もちろん、心の中では花恋と兄に謝り続けながら。


美容師さんは私を慰める様に笑って頷き、またハサミを手に取った。
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