薄羽蜉蝣
「美味そうな煮しめだな。もしかして、持ってきてくれたんかい?」

「あ、あの。昨日のお礼というか……」

 もごもごと言うと、ひょい、と器が手から離れた。

「ありがとうよ」

 にっと笑う。
 暗くてよかったと、佐奈は火照る頬を意識しながら思った。

 ふと視線を落とせば、与之介の腰にへばりついたおせんと目が合った。
 じと、と見る目は、どことなく棘を含んでいる。

「あ、じゃあ……」

 佐奈が戻ろうとしたとき、がら、と向こうの障子が開いた。

「おせん、何やってんだい。おや、お佐奈ちゃん」

 お駒が顔を出し、外に立っている三人を見る。
 そして手招きした。

「お佐奈ちゃんも一人だもんね。夕餉まだだったら、お佐奈ちゃんもおいで」

「おぅ、それがいい。ほれ、行こう」

 軽く応じた与之介に促され、ちょっと不満顔のおせんと共に、佐奈もお駒の家へと足を向けた。
 お駒のところは、あと大工の親父と赤子がいる。

 そこに与之介と佐奈が入り、六畳一間は狭苦しい。
 だが暖かい空気が流れている。

 家族と食事を囲むのは久しぶりだ、と、佐奈はお駒夫婦を見つめた。
 もっともずっと片親だったので、家族が揃う、ということはなかったのだが。
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