薄羽蜉蝣
「うん、美味い」

 我に返れば、与之介が佐奈の作った煮しめを食べている。

「お佐奈さんは料理も上手だな」

「ふ、普通ですよ。ずっと父と二人でしたので、自然とできるようになっただけで」

 煮しめなど、大して技術もいらない。
 慌てて言うが、お駒がにやにやと二人を見た。

「家事に長けてるのはいいこった。与之さん、どうだい? お佐奈ちゃん」

「いいと思うぜ? すぐにでも嫁に行けらぁな」

 笑顔で与之介は、お駒の言葉をするりとかわす。
 が、お駒はずいっと踏み込んだ。

「そう思うなら、与之さんが貰っちゃどうだい」

「お、お駒さん」

 佐奈が赤くなって話を止めようとするが、与之介が返事をする前に、おせんが割って入った。

「駄目だよ、与之は。仕事もしてない甲斐性なしだもの」

「おっ? 言ってくれるね」

 やはり怒るでもなく、与之介が面白そうに応じる。
 与之介の気がこちらに向いたことで、おせんは得意げに鼻を鳴らした。

「腰の刀だって買ったまんまのお飾りだしね。何の役にも立たないよ」

「全くおせんは。そんなこと言って、与之さんがお佐奈ちゃんに取られやしないか、気が気じゃないくせに」

 得意げに言っていたおせんが、お駒に言われて、ぼ、と真っ赤になった。

「お、お母っ! ななな、何言うのさっ」

「何真っ赤になってんだい。一丁前に色気付きやがって。朝から晩まで与之さん、与之さんってうるさいったらありゃしないよ」

「もーーっ! お母は黙っててよぅ!!」

 半べそをかいて、おせんが怒鳴る。
 ははは、と笑う与之介を、佐奈はそっと盗み見た。
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