薄羽蜉蝣
 子供たちを部屋から追い出すと、佐奈はとりあえず、井戸から新しい水を汲んできた。
 それを器に入れて、与之介に差し出す。
 のろのろと上体を起こすと、頭を押さえたまま、与之介は水を一気に飲み干した。

「ぷぁ。は~、生き返った」

「一体どうしましたの? 潰れるまで飲むなんて珍しい」

 佐奈が聞いても、与之介は、ぼーっとしたまま宙を見ている。

「あの」

 しばし沈黙が流れてから、佐奈が口を開いた。

「昨日は、その……。ありがとうございました」

 少し頬を染め、ぺこりと頭を下げる。
 与之介が、意外そうな顔をした。

「何で礼?」

「だって、いきなりあんな話を……。そ、それに、ずっと私、しがみついてて……」

 言っているうちに真っ赤になりながらも、佐奈はちょっと顔を上げると、与之介に笑顔を見せた。

「聞いてくれて、嬉しかったです。ずっと、その……離さないでいてくれたから、安心できましたし……」

 やはり後半は真っ赤になって、照れ臭そうに言った後、佐奈は誤魔化すように言葉を続けた。

「あのっ。私、風鈴の音を聞くと怖くて。あの夜のことを思い出して、震えが止まらなくなったりするんです。だから、与之さんがいてくれてよかった」

 一気に言うと、再度ぺこりと頭を下げる。
 与之介は居心地の悪さを感じ、視線を逸らせた。

「……お佐奈さんはさぁ、その、父親を殺した野郎を、恨んでるか?」

「ええ」

 視線を戻すと、先ほどとは打って変わった佐奈の強い視線とぶつかる。
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