薄羽蜉蝣
「父が殺された当初は、そりゃあ恨みました。十四歳でいきなり一人にされて。何をどうしたらいいのかもわからず、途方に暮れましたよ。父は優しかったですし、男手一つで私を育ててくれました。その父をいきなり奪った犯人を、恨みに恨みました」

 ちり、と与之介の胸が痛んだ。
 が、佐奈は複雑な表情になって、声を落とす。

「でも……父のことを知るようになってからは、何というか……。下手人を恨むのはお門違いなのかも、とも思うんです」

 そう言って、佐奈は土間に目を転じた。
 子供らは、外で遊んでいる。

「父は、悪いことをしていたようなんです」

 ぽつりと言う。
 やはり佐奈は知らなかったのだ。

「詳しくは知らないんですけど、父が殺された後に来た奉行所の人がいろいろ聞いてきて。それで」

「父親が悪党だろうと、娘のあんたにゃ隠してたんだろ。あんたを大事に想ってたから隠したんだろうさ。いくら正体が世間を騒がせた大泥棒だったとしても、あんたの前じゃ、ただの父親だったんだろ」

 与之介の言葉に、佐奈の顔が強張った。

「な、何故それを……」

「いいか。あんたにとっちゃ優しい父親でもな、鬼神の玄八は何の罪もねぇ幼子を殺した。それを苦にして盗人稼業を辞めたってもな、殺られた子の親からすると、許せるもんじゃねぇ。ましてまんまと逃げおおせ、三年ものぅのぅと暮らしてやがった。そんな野郎、殺されたって文句言えねぇ」

 与之介とも思えない、荒い口調で言う。
 佐奈の目に、涙が浮かんだ。

「ただ、肉親を殺されたってのは、伊勢屋もあんたも同じだ。あんたは何も知らなかった。いくら悪党だから殺されたっても、あんたは下手人を恨んでいい」

 俯いて、与之介が絞り出すように言う。
 畳についた与之介の拳の上に、ぽたりと佐奈の涙が落ちた。
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