薄羽蜉蝣
第六章
 夕刻、いつものように鶴橋に行こうとしていた与之介は、長屋の木戸の辺りでうろうろしているお駒を見た。

「おぅお駒さん。どうしたぃ?」

 声をかけると、お駒は不安げな顔で駆け寄ってくる。

「おせんがいないんだよ」

「おせん? そういや最近あんま寄り付かねぇな」

 少し前までは、何かというと与之介に纏わりついていたのに、ここ最近はあまり寄り付かない。
 女の子なので十を過ぎれば洟垂れどもと一緒になって遊ぶこともないのかと、大して気にも留めてなかったのだが。

「あの子、最近は機嫌が悪くってねぇ」

 ちろり、と意味ありげな目を与之介に向ける。

「何でも与之さんが、お佐奈ちゃんといい感じなんだって? おせんの奴、嫉妬で当たり散らすもんだからさ、からかったら飛び出して行って、それっきりなんだ」

「……何だよ、それ」

 ちょっと困ったように笑い、与之介は空を見た。
 そろそろ日が沈む。
 特にまだ心配するような時刻ではないが、与之介は嫌な予感がした。

「探してみるか」

 あえて軽く言い、与之介は木戸を出た。
 とりあえず、よく遊びに行く河原や寺などを巡ってみる。
 だが、どこにもおせんの姿はない。

 そのうちに、日は落ちてしまった。
 単に遊んでいて遅くなっただけかもしれない。

 すでに帰っているかもしれないと、与之介はひとまず長屋に戻った。
 が、木戸を潜ったところで、お駒と出くわす。
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