薄羽蜉蝣
 その日も夕闇が迫る頃、与之介はふらりと家を出た。
 が、出たところで足が止まる。
 斜向かいから、佐奈が出てきたのだ。

「あ、お、お出かけですか?」

「いや、飯を食いに行こうと思ってね」

 言いながら、与之介はちらりと佐奈の手元を見た。
 小さな器を持っている。

「夕餉の支度かい?」

「あ……。お豆腐を買いに行こうかと思ったんですけど」

「豆腐売りは朝だけだぜ。この辺りにゃ店もねぇし」

「そうなんですね。前のところでは、朝と夕方に来ていたものですから」

 仕方ないですね、と呟き、佐奈は与之介の背後を見た。
 今しがた彼が出てきた部屋は、灯りが消えて人の気配はない。

 やっぱり一人なんだ、と思うと、何故か少し安心する。
 そんな自分の心に慌てていると、不意に与之介が口を開いた。

「良ければ、一緒に行くかい?」

「えっ」

「食材買いそびれたんだろ」

 豆腐ぐらいなくても何とかなるけど、と思ったが、佐奈は頷くと、急いで器を置いて与之介の後に続いた。
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