薄羽蜉蝣
「と言っても、こんなところですまぇねな」

 雑然とした店内で、焼き魚にかぶりつきながら与之介が言う。
 店は結構混んでいて、隣に座った腕が触れそうだ。
 どきどきと、佐奈の胸が早鐘を打った。

 今日は鶴橋ではない。
 あそこは仕事の繋ぎ場。
 下手に人を連れて行くところではないのだ。

 適当に見つけた飯屋は、多くの人でごった返していた。

「あの、新宮様は、いつもここに?」

「いや、まぁいろいろだな。それよりも」

 ぼりぼりと魚の骨まで齧り、与之介は横目で佐奈を見る。
 あまりに近くて、振り向くと返って話しにくいのだ。

「与之でいいぜ。同じ長屋の住人なんだし」

「でも、お侍だってお聞きしましたし」

「侍っつっても、浪人なんざ町人と変わらねぇ。お佐奈さんだって、あんな長屋にゃ不似合いだぜ。結構いいところのお嬢さんだったんじゃねぇのか?」

 佐奈が黙り込む。

「ま、詳しいことは聞くめぇよ」

 あっさりと、与之介は話を打ち切った。
< 9 / 63 >

この作品をシェア

pagetop