君がいて、僕がいる。
翌日、目が覚めたら睫毛が濡れていた。
どうして?なんで?考えてもわからない。
……けど、なにかの夢を見ていたことは覚えている。
『__行かないで』
そんな言葉が、私の脳裏を過る。
この睫毛が濡れている意味。
『行かないで』の言葉の意味。
それは全くわからないけど……
「……起きるか」
ケータイを見るともうすでに7時。
将希のご飯を作ることを考えたらもう起きないとまずい。
……そういえば、昨日ご飯を作るとき食材ちゃんと揃ってたな…
お母さんがいないのに……
ってことは、やっぱり…
「早いな、真希」
「……お父さん…」
パジャマのままリビングへ降りると、出勤前のお父さんがまだいた。
「……今日は、遅いんだね」
「あぁ、たまにはな」
久しぶりに見る、冷静な父親。
久しぶりに聞く、冷静な父の声。
こんな穏やかなリビングはいつぶりだろうか…
「……これ、お父さんが買ってきてるの?」
冷蔵庫を開ければ、昨日の夜使いきったはずのたまごが補充されている。
昨日なかった牛乳に、お肉や魚が冷蔵庫に入っている。
残り少なかったはずのトイレットペーパーや、洗濯洗剤…
今まであることが当たり前になっていたものたちが、お母さんがあんな状態にも関わらずこの家は切らしたことがなかった。いつもここにある。
どうして私はこんな些細なことに気づかなかったんだろう。
「俺が買わなきゃ、生きていけないからな」
昨日、私が帰ってきたとき誰もいなかった。
そして昨日なかったものがここにある。
……ってことはこれはあのとき、お父さんがスーパーに行ってたってことで…
今に始まったことじゃない。
だってお母さんが外出することなんてほとんどなかった。というか、外出なんてできる状態じゃなかった。
だからこそ、あの人は私にお金だけを渡してきて……
……でも、あのお金だって家にいたら…