溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
彩音の様子を窺っていると、彼女は深いため息を吐いた。

「もうお姉ちゃんもお父さんも、不器用すぎる!」

「えっ?」

そう言うと彩音は私の隣にピタリと寄り添ってきた。

「お姉ちゃん、お父さんからお母さんへのプロポーズの言葉って知っている?」

そんなの知るわけがない。世間話だってほとんどしてこなかったんだから。

首を横に振ると彩音は話してくれた。

「『娘の母親になってくれませんか? その代わり、僕があなたのお嬢さんの父親になります。家族になってほしいんです』だって。……お父さんはね、お母さんに『一番は亡くなった妻だ』って堂々と言っちゃうくらい、お姉ちゃんのお母さんのことが好きだったんだよ」

「……嘘」

信じられない話に目を見開いてしまう。

「嘘じゃないよ! 今だって私とお母さんを前に、同じことを言っちゃうんだよ? ……でもそれを言ったらお母さんも同じ。まだ亡くなったお父さんのことをずっと想っている」

お義母さんも……?

お父さんからお母さんの元旦那さんも、彩音ちゃんが生まれてすぐに不慮の事故で亡くしたと聞いている。
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