社内恋愛狂想曲
伊藤くんはまさしく今、雑誌の帯を外し、中ほどのページにはさまれていた付録の袋の中から、薄っぺらい紙切れを取り出して広げた。

そして後部座席の車内灯をつけ、雑誌を下敷き代わりにして、私が貸したボールペンと一緒に葉月に差し出す。

「嘘つかないって言うなら、誓約書としてこれを書け」

葉月は差し出された婚姻届にじっと目を凝らし、さすがに驚いた様子で顔を上げた。

「何言うてんの?なんで私が……」

「さっき俺に電話してきて言っただろ、“私アンタと結婚するわぁ”って!俺は葉月に言われた通り、未来の嫁を迎えに行ったんだからな!」

「えっ、嘘?!」

「嘘じゃねぇよ!なぁ、佐野?」

テレビドラマでも見ている気分で傍観しているところを、急に同意を求められて驚き、心臓が止まるかと思った。

私、ここ数日で寿命が数年縮まったんじゃないだろうか。

「う、うん……。葉月、あのとき伊藤くんに電話したんだよ。嘘だと思うなら発信履歴を見て。本当だってわかるから」

葉月は一気に酔いが覚めた様子で、慌ててポケットからスマホを取り出し、発信履歴を確認して青ざめた。

「ホンマや……シゲじゃない……」

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