社内恋愛狂想曲
至極まっとうなことを冷静な口調で後輩に言われ、伊藤くんも葉月も戦意喪失と言ったところだろうか。

さっきまで向かい合って火を吹いていた巨大怪獣が、シュルシュルと縮んでいく映像が見えた気がした。

「そろそろいいですか?僕、明日の朝が早いんで、もう遅いし家に帰りたいんですけど」

「……悪かった」

「ごめん……」

こんなに簡単に事が収まるとは思わなかった。

瀧内くんはもしかしたら、将来大物になるのかも知れない。

いや、いい歳をして小学生みたいな痴話喧嘩を、上司と後輩の前でする男女の方がどうかしているのか。

「さぁ、とりあえず落ち着いたところで帰ろうか。ここから家が一番近いのは伊藤か?」

「木村の方が近いと思うので、俺はその後でお願いします。佐野、三島課長に道案内できる?」

「うん、わかるよ」

三島課長はホッとした様子でハンドルを握る。

それから車が葉月のマンションに到着するまで、葉月も伊藤くんも黙ったままばつが悪そうにそっぽを向いていて、葉月が車を降りるときも伊藤くんは助手席の後ろの席に移動しただけで、葉月の方を見もしなかったし声もかけなかった。

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