社内恋愛狂想曲
もうここまで来ると、腹が立つとか悔しいなんて感情は湧きもしないし、やっぱり他にもいたんだなとしか思わない。

「佐野には酷な話だから黙ってたけど、この際だから話してもいいか?」

伊藤くんは真剣な面持ちで、私を気遣って胸に留めておいたという話をし始めた。

それは例の他部署の女子との合コンに駆り出されたとき、その席で護が同僚と話していたことらしい。

うちの会社の会長は名前が私と一文字違いの“佐野 伊織”とおっしゃる御歳90歳のやり手の女性で、社内では昔から、『会長の孫がこの会社に勤めている』と噂になっている。

もちろん私はただ名前が似ているだけで、会長とは血縁などないのだけど、護はその噂を鵜呑みにした挙げ句、女性でありながら20代のうちに役職に就いた私のことを、会長の孫だと勘違いしているらしい。

「だから佐野と結婚したいんだって言ってたよ。好みのタイプではないし体の相性も良くないけど、鈍感だから浮気しても全然バレないし、高給取りだし料理だけはうまいから結婚相手にはちょうどいいって。おまけに会長の孫だからいずれは重役になるだろうし、身内になればラクして出世できるんだって言ってた」

……なんじゃそれ!

私が会長の孫だとか、妄想もいいところだ。


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