社内恋愛狂想曲
シートベルトをしめているとき、不意に下坂課長補佐のイヤリングをこの車の助手席の下から見つけ出したことを思い出した。

あれはつまり、この席に下坂課長補佐を乗せたということだよね?

触れられるどころか二人きりになるのも苦痛だと言っていたのに、どうしてこの車という動く密室にあの人を乗せたのか?

そしてあのイタリアンレストランから二人で出てきたことも気になる。

「シートベルトしめた?出発するよ」

「あっ、はい」

私が返事をすると、潤さんはサイドブレーキを解除してゆっくりと車を発進させた。

流れていく外の景色を眺めながら、潤さんは一体どんな事情があって下坂課長補佐と一緒にいたのだろうかと考える。

だけどいまさらこんなことを聞くのもなんだかな、とも思うし、今だからこそ聞けるような気もする。

潤さんのことだから、私を騙しているとか下坂課長補佐との間に何かあったとは思わないけど、気になってしかたがない。

「さっきから黙りこんでるけど、どうかした?」

信号待ちで車が止まったときに、潤さんが私の方を見ながら尋ねた。

聞こうか聞くまいかと悩んでいるうちについ無口になってしまった私を、潤さんは少し心配そうに見ている。

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