社内恋愛狂想曲
「はじめまして、三島です」

「どうも……いらっしゃい……」

潤さんが挨拶しても、父は顔も見ないでボソボソとそう言った。

そしてまた新聞の影から、そっとこちらの様子を窺う。

……何やってんだ、父よ。

かくれんぼでも始めるつもりなのか?

それとも“だるまさんが転んだ”か?

父の挙動不審な態度に少し困っているのか、潤さんは苦笑いを浮かべて立ち尽くすばかりだ。

キッチンでお茶の用意をしながらカウンター越しにこの様子を見ていた母も、呆れた様子でため息をついた。

「何やってるの、お父さん。緊張するのはわかるけど、父親なんだからこんなときくらいはシャキッとなさい」

「……はい」

本当に真逆の二人だ。

いつも通り母に従順な父の姿に安心して、思わず笑みがこぼれる。

「志織もぼんやりしてないで、三島さんを客間にお連れして」

「はい」

母に促され、潤さんをリビングの奥の和室に案内した。

その少しあとで父もやって来て、テーブルをはさんで潤さんの向かいに座る。

私はそれを見届けてから、何か手伝うことはないかとキッチンへ向かおうとした。

潤さんは手土産の紙袋に両手を添えて父の前に差し出している。

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