社内恋愛狂想曲
確かにそんなことがあったような気がする。

ザルの私は散々飲まされても平気な顔をして帰ろうとしていたのだけど、店の奥にあるトイレの手前の通路で苦しそうにうずくまっていた潤さんを見つけ、声をかけて水を渡し、背中をさすりながら少しの間そばについて様子を見ていた。

当時の私は、潤さんが女性に触られることが苦手だとはもちろん知らなかったから当たり前にそうしたけれど、ただそれだけのことだったのに、潤さんの中では私を特別だと思うきっかけになったらしい。

なるほど、私を好きになったきっかけはそれだったのか。

「志織だけは特別って、そういうこと?」

「はい。言葉で説明するのは難しいですが、好きな人なら一緒にいて心地いいんだと思います」

「しかし難儀な体質ねぇ……。それならどれだけモテても浮気の心配はなさそうだけど……そもそも、どうしてそんなに女性が苦手になったの?」

これもまた単刀直入な質問だ。

母は遠慮という言葉を知らないのか?

潤さんだって女性が苦手になった理由なんて話しにくいだろうし、この辺で母を軽くたしなめておいた方がいいのかも知れない。

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