社内恋愛狂想曲
潤さんに悪気はなかったとわかっているけれど、もしあのとき母が尋ねなければ、潤さんはずっと私に素性を隠し続けるつもりだったんだろうか?

秘密にしていたのが莫大な借金や隠し子などではないにしても、嫁ぎ先のスケールがあまりにも大きすぎることは、私にとっては未知の世界だから不安でしかない。

潤さんは何も答えられない私をじっと見つめたあと、小さくため息をつく。

信号が青に変わり、潤さんは前方に視線をうつして車を発進させた。

「……俺のこと、きらいになった?」

そう言った潤さんの声がとても悲しそうだったので、私は慌てて首を横に振った。

「そんなことない。潤さんのことは好き。だけど……」

「好きだけど……結婚するのは、いやになった?」

「いやなんじゃなくて……」

この気持ちをどう言えばうまく伝わるだろう?

私は潤さんのことが好きで、ずっと一緒にいたいと思ったのも、結婚して二人で幸せな家庭を築きたいと思ったのも嘘じゃないし、今もそう思っている。

それなのに潤さんが世界的に有名な大企業の後継ぎとなるべき人なのだと知ったとたん、たくさんの不安がよぎった。

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