社内恋愛狂想曲
葉月を起こしてしまわないように布団に潜り込んで声を殺し、パジャマの袖で涙を拭った。

もしあのとき、潤さんと会えなくなるのがこんなにもつらいことなのだと知っていたら、私はきっと潤さんがどんなにすごい家柄の人でも、迷うことなくプロポーズを受けただろう。

たとえその先に大きな苦労があったとしても、潤さんに会えなくなるよりはずっとましだから。



翌日は9時に葉月の家を出て電車で病院へ向かい、予約時間の10時を10分ほど過ぎた頃に名前を呼ばれた。

今日はこれといって時間のかかる検査や治療などはなく、経過観察程度の診察だったので、思ったよりかなり早く済んだ。

会計を済ませてから、院内のカフェで買ったコーヒーを中庭のベンチに座って飲んでいると、下坂課長補佐によく似た女性が正面玄関の自動ドアから入って来るのが窓ガラス越しに見えた。

遠目に見ても本人かと思うくらいよく似ている。

だけど今は就業時間内だから、下坂課長補佐が病院に来るわけがない。

そう思いながらコーヒーを飲み終え、中庭を出てロビーに戻ると、病棟用のエレベーターから降りてくる下坂課長補佐にバッタリと出くわした。

さっきの人はやっぱり下坂課長補佐だったんだ。

誰かのお見舞いにでも来たんだろうか。

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