社内恋愛狂想曲
床に座ってバッグを開けようと、たどたどしい手付きでファスナーを引っ張りながら答えると、瀧内くんは私のそばに近付いてきてしゃがみ、難なくファスナーを開けてくれた。

「事故のあとで潤さんと会って話したときも、本来なら真っ先に志織さんに知らせてくれって言うはずなのに、心配かけたくないから志織さんには知らせないでくれって潤さんは言うし……志織さんが出張から帰ってくる日も知ってたはずなのに、翌日になっても潤さんの口からは志織さんの名前すら出てこなかったんです。二人の間に何か良くないことがあったんだなって思うでしょ?例えば気持ちのすれ違いとか、激しい温度差みたいなものとか」

私が瀧内くんの立場だったら、そんなところまでは考えが及ばないだろう。

それだけのことでそこまで推測する瀧内くんの洞察力に、畏怖の念に近いものを感じて背筋が寒くなった。

「志織さんは潤さんのことを遠回しに聞こうとするから分かりやすかったですね。少しカマをかけてみたら簡単に口を割ったので、おかげで確信が持てました」

カマをかけたというのは、潤さんが私にフラれたと言ったという嘘をついたことを言っているのだろう。

あっさり信じてしまった私は、相変わらずチョロいと思われたに違いない。

「それがどうして事故のことを知らせないっていう判断に行き着くの?」

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