社内恋愛狂想曲
結局私たちがしたことと言えば、冷蔵庫の電源を切り、中に残っている食品を出して袋にまとめたことくらいで、あとは月曜日に私が作業に立ち会うだけだ。

就職を機に、大学時代にバイトしてコツコツ貯めたお金でこの部屋を借り、必要最低限の生活必需品を買って一人暮らしを始めた。

自分で働いて稼いだ給料で細々と生活しながら、少しずつ家具や家電を買いそろえたことを思い出す。

たいした思い出はないけれど、私にとっては自分で築いた小さなお城のような部屋だった。

まだ新入社員だった頃は仕事でミスをするたびに、自分の不甲斐なさが情けなくて悔しくて、この部屋で何度もひとりで泣いた。

護と付き合っていた頃は幾度となく一緒に朝を迎えたり、待ちくたびれて泣きながら眠ったこともあった。

もうこの部屋ともお別れなんだと思うと、忘れかけていた記憶が次々と蘇る。

悔しくて流した涙も、終わった恋の思い出も、この部屋にあるものと一緒に捨ててしまおう。

そんなことを考えながら部屋の中を見ていると、納戸の中にバレーサークルに入るときに買ったものが入っていることを思い出した。

「そうだ……。これだけは持って行こう」

納戸の扉を開けてみると、ここは上の階の火元から遠かったのか、クローゼットなどに比べると湿気もあまりなく、ほんの少し煙の臭いが残っているだけだった。

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