社内恋愛狂想曲
「飢え死にって……それは大げさ過ぎるでしょ。今日は仕事だったの?」

「出張だよ。いろいろ予定が立て込んでてマジで疲れた。佐野は?」

「私はいとこが出産したから顔見に行って、ついでに実家に寄って母親に小言を言われて、その帰り」

少しなら付き合うと自分で言っておきながら、箸が進むのに比例してビールもどんどん進む。

二人ともジョッキが空になったので、伊藤くんが店員を呼び止めて生ビールをふたつ注文した。

これでもうすでに3杯目だ。

「ふーん……小言って?」

「結婚と出産を散々急かされた」

「あー、俺も親とか親戚によく言われるよ。まだ結婚しないのかとか、相手はいないのかって。年齢的にそういう時期なんだろ」

同期で同じ歳でも伊藤くんは男だから出産はしないし、私とはまた急かされ方が違うんじゃないか。

とにもかくにも、男女問わず三十路が迫ると本人より周りが何かと焦ったり気にしたりするらしい。

「男の人は30過ぎてもまだ余裕あるんじゃないの?出産しないし、二十代よりは三十代の方が経済力も包容力も上がる気しない?」

自分でそう言ってから、この言葉は自分に対する特大ブーメランだと気付いた。

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