社内恋愛狂想曲
母の慌てた声は筒抜けだったようで、潤さんのお父さんは私の方を見ながら大きくうなずいている。

「いい……みたい……」

『たいしたことはできないけど……夕飯くらいは用意しましょうか?』

夕飯を一緒にいかがですかと母が言っていると言うと、潤さんのお父さんは少し嬉しそうにうなずいた。

「そういうことならお言葉に甘えて……。私は普通の家庭料理が好きなので、ご両親の普段通りの食事でお願いします」

「わかりました、そう伝えます」

潤さんのお父さんから言われた通りに伝えると、母は少し考えてから、“わかった”と返事をした。

電話を切ったとたん、隣にいた潤さんが大きなため息をついた。

「また勝手に決めて……。こういうことにはそれなりの準備ってものがあるだろう……。昔から言い出したら人の意見は聞かないんだもんな……」

潤さんはうつむきながら右手で目元を覆って不服そうに呟いている。

前に潤さんと実家に行ったときも、潤さんが“明日行こう”と突然言い出して驚いたのだけれど、潤さんのお父さんの“今すぐ行こう”には比べ物にならないほど衝撃を受けた。

もしかすると潤さんはこれまでも、お父さんの強引さにはかなり苦労してきたのかも知れない。

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