正しい『玉の輿』の乗り方

翌日。
私は樹さんの腕の中で幸せな朝を迎えていた。

体中につけられたキスマークの痕が、昨夜の甘い記憶が決して夢ではないのだと実感させてくれる。

ようやく樹さんと結ばれた。

私は満ち足りた気持ちで、寝息を立てる樹さんの髪へと手を伸ばした。

『菜子さんを必ず幸せにしますから』

空港でのプロポーズの後、樹さんは私の両親の前でそう誓ってくれた。

そして、実家で開かれた佳子の復帰を祝うパーティーにも婚約者として顔を出してくれたのだった。

『あのね、お姉ちゃん。樹お兄ちゃんを呼んだのは私なんだよ。お見舞いに来てくれた時に約束したの』

得意げに語る佳子の言葉で、全てが一カ月前から計画されていたことを知る。

『だって、樹お兄ちゃんがね、日本に戻ったらお姉ちゃんに結婚を申し込むつもりだって、お父さんやお母さんに言ってたから。だから、私がお願いしたの。それなら佳子が帰国した時に、お姉ちゃんにプロポーズしてあげてって』

佳子が無邪気に打ち明けた。

そんなことがあって、樹さんの方は、佳子の帰国に間に合わせる為に、私との連絡もままならないくらい仕事に没頭したのだそうだ。

それなのに、帰国直前になって西宮麗華との熱愛を噂されてしまった。

その件についての樹さんの言い分はこうだ。

写真を撮られた日、樹さんは中谷さんから西宮麗華を恋人として紹介され、三人で食事をしたのだそうだ。

その後、樹さんは気をきかせて、向こうで自分が借りていたスポーツカーを中谷さんに譲り、自分はタクシーでホテルへと帰った。

つまり、中谷さんが樹さん名義で借りた車の助手席に彼女を乗せて、夜のドライブデートをしてしまったことで記者が勘違いをしてしまい、結果あんな記事が出てしまったということらしい。

その誤解を解くために、中谷さんは西宮麗華を連れて樹さんと共に帰国。

結婚を前提とした付き合いだと公表することを、彼女の所属事務所にも許可してもらい、一般人ながら記者会見の席にも同席したのだという。

『この度はご心配をおかけして、申し訳ありませんでした』

樹さんは私の両親に事情をきちんと説明し、謝罪してくれた。

『良かったね、菜子。これで何の心配もなく【玉の輿】に乗れるわね!』

そんな夕夏のひと言に佳子がすぐさま食いついた。

『お姉ちゃん、【玉の輿】ってなあに?』と。

さすがに本人を前に説明するのも気まずくて『何だろうね』と惚けたのだけど、好奇心旺盛の佳子は自分のスマホで調べ出してしまった。

それを見た父が慌てて切り出した。

『それじゃ、そろそろお開きにしようか。佳子も疲れただろうから、少し休みなさい』と。

こうして佳子のパーティーは無事終了し、私は樹さんと共に自分のアパートへと帰ったのだった。

そして私達は、小さなシングルベッドの上で体を重ねた訳なのだけど。

『菜子……愛してる。一生大事にするから』

行為の最中に樹さんが呟いた甘い言葉が、しっかりと私の耳に焼き付いている。

キスもその先も全てが初めてだったけど、樹さんに捧げられて本当に良かったと思う。

そんなことを考えながら、私は樹さんを見下ろすような体勢で、その綺麗な寝顔にそっと触れた。

すると、

「ん?………菜子?」

樹さんの瞼が突然開いた。

「あ……えっ……と。おはよう」

慌てて手を引っ込めたけれど、裸のままだし、これじゃまるで樹さんのことを襲おうとしていたみたいだ。

恥ずかしさのあまり逃げるように背中を向けると、樹さんがクスリと笑った。

「菜子は朝から積極的だな。もう、昨日の続きがしたくなったか?」

樹さんは背後から私を抱き寄せ、首筋を吸いあげる。

「ち、違うの。そんなつもりなんて全然…」

「ハハ。冗談だよ。初心者相手にさすがにそんな無茶なことしないから。それより、体の方は平気か?」

樹さんはすぐに私を放して、優しく尋ねてきた。

「うん。大丈夫」

丁寧に愛されたからなのか、初めてなのに痛みなんて殆ど感じなかった。

私はコクコクと頷きながら向きを変え、樹さんの胸にギュッとしがみついた。

「樹さん、大好き…。愛してる」

昨夜は余裕がなくて言えなかったけれど、ずっと心にしまっていた言葉を呟いた。

すると、樹さんから大きなため息が。

「……おまえ。それ反則だろ」

「へっ?」

「あのな。こっちは我慢してやってんだからな? そうやって俺を煽るようなことしたらダメだろ? ほら、もうこんな状態なのに、どうしてくれんだよ」

樹さんはそう言いながら、私の太ももに硬くて熱いものを押し当ててきた。

「うわっ、すごいね。男の人ってこんな風になるんだ? 昨夜はよく分からなかったけど」
 
私は思わず布団をめくりあげて、好奇心いっぱいに見つめてしまった。

「なあ? 菜子。おまえ、それ、ワザとやってる?」

「えっ、何が? ……って、んっ……」

樹さんの方に顔を向けた瞬間、唇を塞がれた。

「悪いけど、おまえのこと抱かせてもらう。小悪魔みたいに俺を煽った罰」

なんて言いながら、樹さんは昨夜のように私に覆い被さってきた。

「あっ……樹さ………んっ」

キスの場所が変わる度、どうしても甘い声が漏れてしまう。

「菜子。俺も愛してるよ」

そんな言葉と共に、樹さんが私の奥まで入ってきた。

「んっ」

ピクンと体が跳ね上がる。

これのどこが罰だというのか。
脳天まで突き上げてくる甘い刺激。

「樹さん…。樹さん」

私は愛しい人の名を呼びながら、快楽の波に呑まれていったのだった。



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