クールな次期社長と愛されオフィス
軽くため息をつきながら、マリカ先輩の言葉に頷く。

記事が出てからというもの、連日のようにマスコミにたたかれ、社長も役員も追い回される日が続いた。

秘書室ではひっきりなしに問い合わせや苦情の電話に追われ、皆辟易している。

社長はすぐに弁明会見を行うも、経営不振は更に加速度を増し社会的信用も一気に失われようとしていた。

見かねた役員OBや役員達から、社長退陣要請が毎日のように噴出し始めていた中、会長がいよいよ動き出しているという情報が耳に飛び込んできた。

会長というのは、宇都宮財閥の創始者で、社長や湊の祖父にあたり、宇都宮の名前を一代で世界中に轟かせた偉大な人。

次期社長は誰なのか秘書室内でもその噂で持ちきりだった。



それは、記事が出た2週間後のこと。

朝から役員室に会長が訪れているということだった。

いよいよ、次期社長が決まったのではないかと秘書達は浮き立っている。

会長室から出て来た秘書室長が、秘書達を集めた。

「これから会長より大事な話があるから皆ここで待つように」

マリカ先輩が私の腕を掴み「いよいよ発表だね」と嬉しそうな顔で言った。

次期社長は一体誰になるんだろう。

まさか、まさかだよね。

でも、もしそうだったら・・・。

淡い期待が膨らむけれど、そんな虫のいい話があるわけないとも思っていた。

だって、それらしき人物が秘書室内に入ってきた様子はなかったし。

ふぅ、と軽く息を吐いて、秘書達と待っていた。

廊下の向こうから会長が杖をつきながらゆっくりと私達の前に現れる。

会長を拝見するのは初めてだった。

かなりの高齢だけれど、その眼鏡の奥の目の光の強さは創始者たる所以なのだろう。

その目はどことなく湊に似ているような気がした。










< 107 / 120 >

この作品をシェア

pagetop