クールな次期社長と愛されオフィス
「新社長がお呼びだ、すぐ行って」

湊が?

一体何だろう。こんなすぐに呼び出される理由は全く検討もつかない。

私は急ぎ足で社長室に向かった。

湊と会うのは一ヶ月半ぶりだ。

たった一ヵ月半なのに、私には何十年も会えなかったような遠い時間に感じる。

ひょっとしたら、もう私のことなんて何とも思っていないかもしれない。

どんな顔して会えばいいんだろう。

少しだけ覚悟を決めて、社長室の扉をノックした。

「はい」

扉の向こうで愛しい声がする。

「堂島です。失礼します」

私はゆっくりとその扉を開いた。

ドキドキしすぎて顔が上げられない。

どんな表情で湊と向かい合えばいい?

扉の前で立ちつくしていたら、「入って」と湊は静かに言った。

足を踏み入れ扉を閉めた。

湊の足音がゆっくりとこちらに近づいてくる。

「アコ」

優しい、懐かしい湊が私を呼ぶ声に思い切って顔を上げた。

「・・・湊」

「待たせてごめん」

そう言うと私をそっとその胸に抱き寄せる。

彼のぬくもりと香りは以前のままで、社長になったって湊は湊だと感じた。

「会いたかった」

湊は私の頬に顔を寄せてささやく。

「今は部長じゃなくて社長なんですね。なんだか遠くに感じちゃいます」

「アコにとっては俺は社長じゃない、ただの湊だ」

「でも」

そう言い掛けた時、湊のやわらかい唇に塞がれた。







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