クールな次期社長と愛されオフィス
社長室で久しぶりに会った湊とキスをしている。

まだ信じられなくて、胸の奥が締め付けられるほどに切なくて苦しくて愛おしい。

色んな感情が複雑に絡み合って私の中をぐるぐると回っていた。

湊は私の体を強く抱きしめ、私の髪や首筋、背中を撫で上げる。

離れていた間を取り戻すかのような熱い抱擁だった。

そんな抱擁を受けながら、私も少しずつ湊との時間を取り戻していく。

ようやく唇が離れ、湊が潤んだ熱い瞳で私を見つめながら言った。

「もう二度と離れないから。ずっとアコのそばにいる」

私は呆然とその熱い瞳を見つめていた。

夢かもしれない。

夢だったらどうしよう。

「なんとか言え」

湊は私のおでこを人差し指で突きながら苦笑した。

「これって夢じゃないですよね?」

ようやく思いが口から飛び出す。

「なんならもう一度キスしようか?」

湊は今までと変わらない不敵な笑みで私の顔をのぞき込み、そして尋ねた。

「俺のそばにこれからもいてくれるか?」

「はい、ずっといます」

私はその瞳を見つめ返しながらしっかりと頷いた。

湊は嬉しそうな顔で頷くと、私の手をとってソファーの方へ連れていく。

「アコをここに呼んだのは、抱きしめてキスしたかったからっていうのともう一つ」

ソファーに座るよう促されて、ゆっくりと腰掛けた。

「アコには、これから海外新規事業開発部の企画チームでブレンドティ開発を行ってもらいたい」

突然の話に訳がわかららず目を大きく見開いて首を傾げる。

「もっとわかりやすく言おうか。堂島アコに秘書室から企画チームへ異動を命じる」

「はい?!」

思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

秘書室から海外新規事業開発部へ異動?

「いいね?これは内示だ」

「ほ、本当ですか?信じられない」

「ニューヨーク支店にふさわしい日本のブレンドティを専属で企画してもらいたい。社運がかかっている。よろしく頼んだよ」

湊はそう言って優しく微笑んだ。

「が、がんばります!」

私は震える胸を押さえて湊に頭を下げた。

「あと、社内規定を少し変えようと思う。副業禁止を廃止する。社員が自分自身を高めるために、どんどん自分の可能性にチャレンジすることは素晴らしいことだと思う。これから先、会社だけにしがみつく時代は終わったんだ。それに、そういう新しいチャレンジをする人材は必ず我が社にも利益をもたらすだろうと強く信じている」

湊を見つめる目が霞んでいく。

「アコは堂々と自分の夢のためにこれからも丸宮珈琲店で勤めればいい」

色んな感動が一気に訪れすぎて、感情の波に私の言葉がのまれていく。

湊は優しい目で頷きながら自分のハンカチを私に差し出した。

もう会えないかもしれないと思っていた湊が目の前にいて、私の夢の支えになってくれている。

夢じゃないとわかっていても、まだ夢のようだった。


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