クールな次期社長と愛されオフィス
私の座るソファーの前のイスに宇都宮部長も腰をかける。

「君の名前は堂島アコ・・・だね?」

「はい」

「俺が堂島を呼んだのは、」

ゴクリと喉の奥が鳴った。

「君に俺の秘書をお願いしたいからだ」

うつむいたまま、視線だけ部長の顔に向けた。

うそ・・・でしょ?

私があの店の店員だってことがばれてないなんてことはないはず。

「どうした?俺の秘書は不満か?」

部長は足を組み直し、不敵な笑みを浮かべていた。

どういう魂胆で私を秘書にしようっての?

何か裏があるのかもしれない。不安になり思い切って尋ねてみた。

「あの、どうして、私なんでしょうか?」

「どうして?それは、君がこの秘書室の中で俺が唯一その仕事ぶりを知っている人間だからだ」

「仕事ぶりって・・・」

「珈琲店での君の仕事ぶりはなかなかだった」

やっぱり、ばれてるんだ。

「あの、いいんでしょうか?私、このまま秘書を続けて」

「何か問題でもあるか?」

「い、いえ、でも・・・うちの会社、副業禁止だから」

部長は前髪を掻き上げて私をじっと見つめていた。

「俺個人にとっちゃ、そんなことはどうでもいいことだけど。お前が気にするんなら、どうしてあの店で働いているのか聞いておこう」

そう言うと、ゆったりとソファーの背にもたれて自分の顎に手をやった。

思いの他優しい目で。

ここまで来たらもうどうにでもなれ!

部長の口調から、私がアルバイトしていることを否定的に捉えていないと感じて幾分安心したからというのもあったんだけど。

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