クールな次期社長と愛されオフィス
部長のパソコンのキーを軽やかに叩く音を聞きながらフレーバーティを作る。

日本製のドライオレンジを細かく刻んだものをあらかじめ混ぜていた紅茶に熱々のお湯を注いだ。

オレンジと品のいい香りを放つ紅茶が混じり合い部屋中に爽やかな香りが漂う。

キーボードを打っている部長の横にそっと紅茶を置いた。

無愛想で偉そうで、だけどたまに優しくて。

こんなきれいな指でどんな女性を愛するんだろう。

部長がキーを打つ長くてきれいな指を見つめながらそんなことを考えてしまった。

部長の手が止まり、私の顔を見上げた。

いつも自分の気持ちを見透かされるような部長の目は苦手だ。

苦手っていうか、じっとその目を見続けていられないような気持ちになる。

「どうぞ」

そう言うと、自分の席に戻った。

「いい香りだ。疲れた時には柑橘系の香りは染み渡る」

部長はそう言うと、一口紅茶を飲んだ。

「ん」

そう言うと、僅かに頬を緩ませて頷いた。

その表情は恐らく気に入ったってこと。

部長と2人きりで過ごす時間が長いから、いつの間にかそんな些細な表情で感情を読み取れるようになってきていた。

まだ完璧ではないけど。

「この紅茶は、やっぱり生産者から直接購入しないといけないんでしょうか?是非、うちの店でも使わせて頂きたいなって思うんですが」

部長はティカップをテーブルに置くと、私の方に目を向けて言った。

「これから一緒に行ってみるか」

「え?」

これからって??

「この紅茶生産所は都心から少し離れてるからな。今から行けば昼までには着くだろう」

「でも、部長も出張から帰ってきたばかりだし、仕事もたまってるんじゃ?」

「今、ざっとメールと書類に目を通して、急ぎの案件についてはもう返事済みだ。元々、今日はオフのつもりで帰ってきてるから問題ない」

そう言うと、部長は紅茶を一気に飲み干し立ち上がった。

「すぐに向かうから堂島も用意しろ。今日はそのまま直帰になるから着がえも済ませて荷物も全部持っていけ」

「って、言われましても」

急な展開に慌てて何からどうすればいいかパニックになっていた。

「ビルの前に俺の車回しておくから、用意が出来たら降りてこい」
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