クールな次期社長と愛されオフィス
車は高速に乗り更に進んでいく。

ニューヨークから帰国したばかりだというのに、車の運転疲れないのかな?

時々、部長の横顔を盗みみながら助手席で揺られていた。

相変わらず無口な部長だったけれど、特に普段と変わらないクールな表情で運転している。

眠そうな気配は微塵も感じられないし、運転も安定している。こんな乗り心地が快適な車には乗ったことがないくらいに。

きっと大丈夫・・・・・・なんだろね。

いつも1人で色んな仕事をこなしたり出張行きまくって平気な部長だから、一般人と一緒にしちゃいけないのかも。

きっと特別強靱な体力を持ってるんだわ。

だって、疲れてたらこんな遠くまで私を連れて来ようなんて思わないもの。

そんなことを考えて一人でにやにやしていたら部長に横目でにらまれた。

「何1人でにやついてんだ?助手席にのんびり座ってるんなら俺の運転のテンションが上がるような事一つでもしゃべれよ」

は?

思わずそんな顔で部長に顔を向けてしまった。

「なんだ、その顔は」

「いつも思うんですけど、もう少し丁寧にというか優しくというか、そういう言い方はできないもんでしょうか?」

部長の切れ長の目が僅かに見開いた。

しまった。

宇都宮財閥のご子息様にこんな偉そうな口を叩いてしまった。

助手席に乗ってることで気持ちが大きくなりすぎちゃったかも。

「すみません。えらそうなこと言ってしまいました。今のはなかったことにして下さい」

「それはできないな」

「え?」

怒らせちゃった?

「俺は今までこういう生き方しかしてこなかったから、うまく自分の気持ちを伝える術をしらない」

何なの、その開き直った言い方。

やっぱり部長とは相容れない・・・と思っていたら、部長は続けた。

「決して悪気はない。俺なりに堂島にはいつも感謝しているし優しく接しているつもりだなんだが。気を悪くしているならすまない」

部長の頬がわずかに緊張していた。

今、私に謝ってくれたの?

こんな素直な部長は初めてだ。少し照れた横顔の部長をじっと見つめた。

「じろじろ見るな」

部長は前を向いたままいつもみたいにクールに言い放った。

だけど、そんな部長がちょっぴりかわいいと感じた。

「驚きました。部長が私に感謝してくれてるなんて」

「堂島は俺が今まで出会った女性の中ではひときわ俺のペースを見事にかき乱す人間だ」

私だって部長にかき乱されてるんですけど、と言いたくなる。

「かき乱されるがお前を見てると飽きない。うまく言えないが嫌いじゃない」


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