クールな次期社長と愛されオフィス
商談室で紅茶を頂いていると、部長がふいに言った。

「こちらにいる者は僕の連れですが、谷本紅茶を飲ませたらかなり気に入りましてね。彼女が勤める珈琲店と是非取引させてもらえないでしょうか」

ひょっとして私の商談してくれてる??

「え、あ。こちらのお連れ様は部長とどういったご関係で?」

谷本社長は笑顔を向けながらもその目は訝しげに私を見ていた。

でもまさか秘書だなんて本当のことは言えないよね?

だって、部長は私が珈琲店に勤めてるなんて言っちゃってるんだから。

それこそ副業認めることになるもの。

私をじっと見ている谷本社長の視線から逃れ、助けを乞うように部長の方を見た。

「実は」

相変わらずクールな表情のまま部長は言った。

「僕のフィアンセです」

え?

何ですって??!

私は口をあんぐり開けたまま部長の顔を見た。

部長はそんな私を見てクスッと笑うと人差し指を自分の口元にさりげなく当てて続けた。

「まぁまだ公にしてはいませんので、くれぐれもご内密に」

「いや、はや、そうでしたか!それは失礼いたしました」

谷本社長は慌てた様子で額をかきながら私にペコリと頭を下げた。

フィアンセって!?

不敵な笑みを浮かべている部長によくもまぁそんな大それた嘘を平然とつけるもんだと思いながら、胸の奥がドクンドクン脈打っていた。

冗談にもほどがある。

これからお世話になる谷本社長だってのに!

やっぱり財閥クラスのお金持ちとなると何考えてるんだか。

心の中で悪態つきながらも私の顔は沸騰寸前なくらい熱かった。

その後、フィアンセと知ってからの社長は私への態度が一変し、トントン拍子に話が進んでいく。

すぐにマスターに電話をかけ取引の承諾を得てから、契約書にサインをした。

結局フィアンセ効果で一気に契約がまとまったのは、他でもない部長のおかげなんだけど。

それにしても、部長のフィアンセだなんて・・・・・・あり得ないし。

帰りの車の中で、イライラとドキドキでどうにかなりそうなままじっと黙っていた。

一秘書である私がそんな話を切り出すわけにもいかないんだもん。

この沈黙が辛いんですけど!




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