クールな次期社長と愛されオフィス
「今日帰りは何時?」

ティカップに口をつけながら亮が尋ねた。

面倒くさいこと聞いてきたなぁとうんざりしながら、お皿を拭く。

「えーっと、」

適当にはぐらかそうとしたその時、入り口の扉が開きドアベルが心地いい音を鳴らした。

視線を向けると部長だった。

部長はマスターに軽く会釈をして入ってきたがいつものカウンター席が空いてないと確認すると特に表情を変えることもなく窓際のあいているテーブル席に腰掛けた。

亮からの質問は答えないまま、慌てて水を入れたグラスをお盆にのせて部長の元へ急ぐ。

「いらっしゃいませ」

「ああ、おつかれ」

そして小声で部長に言う。

「すみません、今日はいつもの席空いてなくて」

「別に構わないさ。それより、あのカウンター席に座ってる男はお前の知り合い?さっき親しげに話していたようだが」

珍しく部長から私に話しかけてきた。

話してたの見られてたんだ。

「ええ、まぁ。学生時代の友達っていうか」

「へー、そう」

部長は私から視線を外すとメニュー表に目を向けた。

私に興味があるのかないんだか。

部長はメニューに視線を落としたまま言った。

「腹が減ってるからナポリタン」

「はい、紅茶は?」

「今日はいい」

今日はいい?

いつも必ず私のオリジナルブレンドティ飲むのに。

少し気になったけど、ナポリタンとだけ注文票に記入してカウンターに戻った。

「マスター、ナポリタン一つお願いします」

キッチンに立つマスターに伝える。

なんだか胸の辺りがモヤモヤする。

どうして今日は飲まないんだろう。

「あー、アコのブレンドティ、めちゃくちゃおいしかったよ」

ぼんやりたたずんでいた私に亮が大きな声で言った。
< 43 / 120 >

この作品をシェア

pagetop