理系教授の秘密は甘々のはじまり
講演は11時きっかりに始まった。

"敗血症の薬物治療における最新の知見"と題した講演は立ち見席が出るほどの人気だった。

いかに薬学や医学が発達しようと、細菌やウィルスの進化には追い付けない。いたちごっこを繰り返すのがさだめだ。

ありふれた細菌やウィルスの感染でも、劇症化して敗血症となり死に至るケースも少なくない。

臨床と協力して薬物の作用、副作用を見極めることは大切なことだ。

葉山の講演は分かりやすく、若くして教授に抜擢されたことに誰もが納得するような内容だった。

講演を終えた葉山をたくさんの人が取り囲む。
波実は、そっとその場を離れようとしたが、敢えなく葉山に見つかってしまう。

「鈴木、どこへ行くんだ」

葉山は波実を呼び寄せると、集まった観衆に言った。

「申し訳ありませんが、この後も所用があって急いでおります。ご質問は大学院のメールアドレスの方へお願いします。鈴木、行くぞ」

「はい」

そんな急ぎの用事があったかな?

波実は首を傾げながらも、ちょこちょこと葉山の後をついていった。
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