+小悪魔恋愛2+
オレが焦りながらまたコーヒーを一口飲むと
「坂咲くん、ありがとー」
なにっ!?
遠くて聞こえにくいはずの柚の声も、オレの耳にはしっかり届いた。
オレは笑い続ける純平を無視して周りの様子を確かめる。
どいつが「坂咲くん」だ。
少し椅子から腰を上げると、カウンターを出たところでちょっと背の高い細身の男と話をする柚が見えた。
振り向かないと顔はよく分からないけど、なんとなく格好良さげ。
いや、本当はそんなこと少しも分からないんだけど、勝手にそう錯覚してしまう病んだオレがいる。
ここは行っておくべきなのか。
オレでもたまにしか見れない柚のお着替えシーンを、お前が勝手に覗くんじゃないって言ってやった方がいいのか。
でも、それがいつもの柚の大げさ話ではないとも言い切れないから…
そんなことをぶつぶつ考えてると、今度は「坂咲くん」が柚の頭を撫でた。
何を誉めているのか、いや別にそうやって誉めなくても子供じゃないんだから!
イライラがたまってくると、体の動きまで堅くなってくる。
「陸くん、ここ来ると体悪くするんじゃない?」
紗香ちゃんの気の毒そうな顔。
それはこんな風景が日常茶飯事だということを言ってるのか?
「大丈夫だよ。仕事上のことだし」
オレが苦笑いでそう返すと
「お前全然大丈夫な顔してないぞ」
相変わらず純平は笑っていた。
そんなこと言ったって、バイトしてる時のことは文句言えないし。
オレには分からない、従業員同士の関係だってあるんだろうし。
ただ…、たしかにこれ以上見てるとオレも倒れる危険がある。