天才策士は一途な愛に跪く。
退勤処理を終えた19時過ぎ・・。

携帯電話に7件に渡る母からの着信があった。

グレーのパンツ姿の私は、白衣を脱いで更衣室へと向かった。

「あれ?チーフ、もう帰るの??」

白衣姿のアオイが、数冊のレポートを抱えてこちらへ歩いてきた。

「うん。今日は母が田舎から私に会いに来ているの。仕事が終わったら
連絡する約束だから、早めに出るわ。明後日のパーティ準備もあるのに、悪いわね・・。」

「うちの部署は研究メインなんだから、他の部署に任せておけばいいよ。
僕はデータ入力はほぼ済ませたから、もう帰れる。」

「えっ!?あの膨大なデータ・・。半日で入力したの?」

私は驚いて、アオイを見上げた。

嬉しそうな表情のアオイの蒼い瞳と目が合って、驚いた。

「うん、あんなの余裕だよ。それよりもシステムエラー出てたのに、晶が一瞬で改善した
時は驚いた。サスガだね・。」

お互いの実力を確認して、嬉しくなった。

アオイは優秀な人材だ。

「それよりも、お母さんが待ってるんでしょ?急いだほうがいいよ。」

「うん!!ごめんね、後は任せたわ。」

私は、慌ててエントランスへと走った。

エントランスの吹き抜けホールと、エスカレーターが2台設置された真横のスペースに
ソファスペースが置かれてある。

昼前にメールを送り、そこで母と待ち合わせた。

「ごめんね、心配して来てもらったのに・・。遅くなって!!」

セミロングに、細身の黒いワンピース姿の母。

ピアノ教室の先生を続けている森丘 可憐(もりおか かれん)が椅子に座っていた。

私は一目見た母の様子にゴクリと喉を鳴らす。

「・・・晶、一体どういう事なの!?」

立ち上がった母は、私に詰め寄りグレーのスーツの上着を強く握りしめた。

「お母さん・・??火事の事は、心配かけて・・。」

「違うわよ!!ボヤで済んだって言うけど・・。火元は貴方の部屋付近だって・・。
それに貴方はその日旅行で留守だったって聞いて・・。心配したのよ!!
連絡はつかないし・・。
二条コーポレーションに連絡したら、貴方は辞めたって言われて驚いたわ。」

母に連絡出来なかったとはいえ、余程心配をかけてしまった。

滅多に顔を合わせても、言葉も余り交わさなかった母との久しぶりの長い会話だった。
< 89 / 173 >

この作品をシェア

pagetop