時を繋ぐ真実の物語<「私の獣」番外編>
ダニエルと名乗ったその男は、どうやらいつもケプラー邸の門扉を開けてくれる、あの老婆の息子のようだ。


アメリは、にっこりと微笑んだ。


「お母様に、心配してくださりありがとうございます、とお伝えくださいませ。私なら、大丈夫ですわ。人に冷たくあしらわれるのは、馴れていますので」


出会った頃のカイルに比べたら、ケプラーの態度など気に留めるようなものではなかった。


悪名を国中に轟かせていたカイルはアメリに剣を突き付けたり、乱暴を働こうとしたり、さんざんだった。


それも今となっては、大切な思い出だ。





「そうですか、それなら安心しました」


ダニエルは、人の良さそうな顔に安堵の色を浮かべる。


「ロイは占いの腕は確かなのですが、昔から他人に厳しいところがあって、参ってるんですよ。もっとも、子供の頃はああじゃなかったんですがね。とても人懐っこくて、社交的な子供でした」


「暗闇で水晶玉をじっと見つめているような、ネクラなやつがですか?」


ブランが、信じられないといった風に声を上げる。ダニエルは、小さく苦笑した。


「ああ、あのことですね。あの儀式には、大事な意味があるのですよ。ロイはああやって、”見えすぎない”ように念じているのです」


「”見えすぎない”ように……?」


アメリの声に、ダニエルは頷いた。


「ロイには、未来を見る力があるのです。それも、怖いほどに事細かく分かるそうですよ。優秀な巫女の血を引くケプラー家には、稀にそういう能力を持つ人間が生まれるのです。子供の頃、ロイの能力はたいそうもてはやされました。けれども、その能力はロイを不幸にしました。だからロイは、未来を見ることを恐れ、水晶玉に予知能力を吸いとらせて心のバランスを保っているのです。水晶玉は一般的に未来を見る力を貸す道具として知られていますが、ロイのような能力が強すぎる者にとっては、そういう使い方もあるようですよ」


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