冷徹王子と成り代わり花嫁契約
「駄目よ、やめて」
今度は肩などの、動きを封じるための一撃ではない。
その胸を撃ち抜こうと、狙いを定めていたのだ。
「エリオット、彼を殺しては駄目!」
咄嗟に手にしていた《血印の書》をエリオット王子に向かって投げ付けた。
小口に付けられた錠の、鉄の部分がエリオット王子の頬を掠めた。
「お前を殺そうとした男だ」
「だからって、そんなことをしたら戦争になるわ!それがあなたの望んだ未来なの!?」
長い間、戦争とは無縁の平和な日々を過ごしてきたレッドフィールド王国。戦争になんてなれば、勝機はない。
たくさんの国民の命を失うことになる。
「俺は……」
エリオット王子が何かを言いかけた時、パキンッと、金属同士が擦れるような――いや、錠前が外れる音がした。
「っ、今度は何だ!」
震える手でサーベルを構えるクリストフ王子が、焦ったように声を上げた。
エリオット王子の頬に当たり、地面に叩き付けられるようにして落ちたはずの《血印の書》が、淡い光を放って宙に浮いている。
「封印が……」
吸い込まれるように私の爪先も浮き、《血印の書》の方へ引き寄せられた。
誘われるように、恐る恐るそれに手を伸ばして、指先が触れた瞬間――私の身体は眩い光に包まれたのだった。