秘密の恋は1年後
ふと視線を感じ、なにげなく右上に持ち上げてみる。
「っ!!」
黙って乗っている彼に微笑みかけられ、息をのんだ。
それは、ふたりきりでいる時に見せてくれる、ちょっと意地悪なもの。
口角を僅かに上げ、私を流し見て、ドキドキしている私の様子を楽しんでいるかのようにも感じる。
なにも起きるはずはないと思っていただけに、微笑みひとつの破壊力は計り知れず、慌てて視線を自分のつま先に落とした。
「お先に失礼いたします」
先に人事部が入る二十九階でドアが開き、彼に声をかけてから降りる。
「どうしたの? 顔、真っ赤だけど」
「えっ!? ……エレベーターの中が混んでて、暑かったからかな?」
もとからごまかすのは苦手なので、上手くできたかはわからないけれど、同僚は特に気にする様子もなく自席に戻ってくれたのでホッとした。
口外しないでほしいと言ってきたのは彼なのに、なんたる仕打ちなのだとムッとしつつ、ふたりだけの甘い秘密に胸を躍らせずにいられなかった。