秘密の恋は1年後
三十階からエレベーターで地下駐車場へ下り、愛車に乗って地上に出た。
正面入口の並びにある車両出入口で、行き交う歩行者の波が途絶えるのを待つ。俺に気づいた社員が会釈してから前を通り過ぎていき、その流れで社屋の出入口に視線を送った。
「ひとりじゃないのか……」
まひるが同僚と思しき女性と話しながら出てくるのが見えた。しかも、後から男性社員も追ってきて、仲よさそうに話している。
誰だ、あの男。人事部の社員? 仕事から離れても話すほど仲がいいのか?
ハンドルに腕を交差させて乗せ、遠巻きに様子を伺う。
これから食事に行くとかそういう連絡もないから、その辺まで一緒に帰るだけだろうと察し、俺は車を再発進させた。
富ヶ谷(とみがや)で高速を下り、代々木の兄夫婦の自宅マンションに車を停める。
兄貴たちがどういう経緯で交際に発展して、結婚まで至ったのか詳しく知らないけれど、いざ自分が似たような境遇に身を置いたら、参考までに聞きたくもなってきた。
でもそんなことを聞いたら、兄貴は冷やかすに決まってる。昨日なにを話したのか聞くのが先だろうな。