秘密の恋は1年後

 三階の部屋のインターホンを押すと、数秒経ってから結衣ちゃんが出迎えてくれた。


「愛斗さんも帰ってますよ」
「あ、そうなの?」

 リビングに入ると、兄貴がソファで新聞を広げて座っていた。
 自宅に帰って肩の力が抜けている彼は、振り返ってにこやかに微笑む。


「おかえり」
「あぁ」
「尚斗さん、ポテサラ作ってありますよ!」
「ありがとう。楽しみにしてたよ」

 兄弟では素っ気ない会話も、結衣ちゃんがいてくれると場が明るくなる。
 昨日のことがずっと引っかかっているせいで、内心はムッとせずにいられないから、彼女がいてくれて助かった。
 他の男と食事に行かれるよりよかったんだろうけど、やっぱり面白くはないからだ。


「結衣、ビール」
「はーい」

 兄貴に頼まれると、すぐに彼女がふたり分のグラスを缶ビールをリビングに持ってきてくれた。
 それぞれ手酌でグラスを満たし、適当に乾杯をして半量ほどを飲み干す。

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