秘密の恋は1年後

 だけど、兄貴から話を切り出す様子はなく、痺れを切らして口を割った。


「昨日、なんでまひると会ってたの?」
「偶然駅前で会ったから、ランチに誘っただけだよ。そんな怒るようなことじゃないだろ?」
「別に怒ってないけどさ」

 そうだ、怒っているわけじゃない。
 まひるが他の男とデートをしたわけでもないし、ランチで気分転換して午後の業務も頑張ってくれるのが一番だからだ。
 じゃあ、なんでこんなにムカついてるんだろう。

 いざ兄貴を前にしたら、自分の感情が靄の向こうにあるようで見えなくなりそうだ。


「悪かったよ、勝手に誘って」
「いや、構わないけど」
「本当はお前が一緒に過ごしたかったんだろうけど」

 あぁ、そうか。
 俺も偶然、店の前を通りかかって、兄貴と話してるのを見てしまったから妬いてるだけだ。

 格好悪いな、ヤキモチなんて。

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