秘密の恋は1年後

「申し訳ない。怪我はないですか?」
「せ、千堂社長! 大変失礼いたしました!」

 あろうことか、社長とぶつかってしまうなんて。
 私は慌てて頭を下げ、謝罪の後で荷物を拾おうとしたら、先に彼が私の手を取って立たせてくれた。

 初めて触れた彼の手は、見た目以上に逞しさを感じる。
 そして、私より幾分か高い体温を知って、胸の奥がギュッと締め付けられた。


「麻生さん、本当にどこも痛めてないですか?」
「はい、大丈夫です。本当に申し訳ありません」

 予想外の展開に胸の奥が飛び跳ねる。また話せるチャンスが訪れるなんて。
 しかも、私のことを覚えていてくれたのが、なによりも嬉しい。


「読書家なんですね。どんな本を読んでいるんですか?」

 その隙に彼が本を拾ったので、私は失礼を承知ですかさず彼の手から抜き取った。

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