秘密の恋は1年後

「おかえりなさい」

 愛斗さん夫婦のようにラブラブなお出迎えにも憧れるけれど、現実はそう甘くない。
 だけど、スーツ姿で凛々しい彼をようやくひとり占めできると思うと、抱きつきたくなる衝動に駆られる。


「え、なに?」

 期待しつつ目の前で立ったままでいると、彼は長身から不思議そうに問いかけてきた。
 だけど、特になにも起こりそうにないので、内心しゅんとする。


「さっきちょっと雨に打たれたから、シャワー浴びてくる」

 私の横を通り過ぎた彼は書斎にバッグを置き、スーツをハンガーに掛けることなくデスクチェアの背にかけ、着替えを持って洗面室に入っていった。


 愛斗さんみたいに、おかえりのキスがないと不機嫌とか、甘い生活をしてみたいんだけどなぁ……。そういうところは似てくれなかったらしい。
 少しだけ雨に濡れたスーツを明日クリーニングに出すために、ハンガーにかけてリビングに持ち出した。

< 190 / 346 >

この作品をシェア

pagetop