秘密の恋は1年後

 どんよりとした気分で足取り重く、自席へ戻った。
 同僚には何事もなかったように振る舞うけれど、今頃社長が小説を読んでいるかもしれないと思うと、仕事が手に着かない。


 十六時を回った頃、デスクトップに新着メールの通知が出た。
 送信者が【Naoto SENDOH】と表示されていて、ドキドキと鳴る胸を抑えつつすぐに読む。


【人事部 麻生さん
 お疲れさまです。千堂です。先ほどは失礼しました。もし、後からでも痛むところが出てきたら、遠慮せず連絡してください】

 初めて個人的に送られてきたメールとその気遣いにときめく間もなく、続きに視線を滑らせた。


【――お預かりした本ですが、定時後に私のところへ取りに来てください。都合が悪ければ、また後日にでも】

 都合が悪かろうと、絶対に引き取らなくては。
 もしかしたら、まだ一ページも読んでいないかもしれないのだから、一刻も早く手元に回収するに限る。


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