秘密の恋は1年後

【千堂社長
 お疲れさまです。人事部 麻生です。先ほどはこちらこそ失礼いたしました。おかげさまでどこも痛めておりません。お気遣いありがとうございます。本日、伺いますのでよろしくお願いいたします】

 定時まであと約二時間。
 どうか、社長があの小説を読まずにいてくれますように。



「お先に失礼します」
「麻生さん、お疲れさま」

 定時で業務を終えて、足早に席を立つ。
 部長や先輩は立て込んでいるようだけど、基本的に残業しないのが人事部のルールだ。

 いつもならロッカールームで身なりを整え、下階行きのエレベーターに乗るところを、階段で一階上の役員フロアを訪れた。
 念のため、役員室を訪れるのは誰にも気づかれない方がいいと思い、普段使わない階段を使うことにしたのだ。

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