秘密の恋は1年後
そのまま彼の手元に視線を移した私は、すぐに駆け寄ってデスクの向かい側から手を伸ばす。失礼だと注意されるかもしれないけれど、悪い予感が的中していたのだから、なりふり構っていられない。
それなのに、彼は椅子を回転させ、またしても簡単に私を避けた。
「ミステリーらしくないタイトルだったので、どんな話なのか気になって、ちょっとだけ読ませてもらいました」
「えぇっ!? そんな……」
「なかなか序盤から刺激的でしたよ」
ショックを受ける私を見て、千堂社長はくすっと笑う。
読まなくても、明らかにミステリーじゃないって分かるはずなのに……。社長って、もしかして意地悪な人なの?
「二度と仕事の合間に書店には行きませんので、どうか返していただけないでしょうか」
彼は椅子から立ち上がり、デスクを迂回する。そして、私の手を取ると、本を約束通り返してくれた。
読まれたのは最悪だけど、知られてしまったものは仕方がない。
隣でいたずらに微笑む彼にどう思われようと、相手がいる彼への想いをひっそりと抱えていくしかないのだから。