秘密の恋は1年後

「それが無理なら、今ここでキスしてくれる?」

 突然接近した距離に、思わず彼の胸を押し返した。
 社長って、こんなことをする人だったの!?


「さすが人事部。セクハラだって言いたい?」

 思っていた彼とかけ離れた言動に動揺が隠せなくて、言葉にならない。


「でも、麻生さんが持ち込んでる本だって、会社で読むようなものではないと思うけど」
「これは、買っただけです。帰宅してから読むつもりでした」
「……でも、結果として俺に読まれたじゃない」
「そ、それは社長が勝手に」

 無茶苦茶な言い分に、つい反論する。


「誰にも言わないから、明日の夜は俺に付き合って。いいね?」
「……かしこまりました」

 社長の権力を使った強引な約束を結ばされてしまった。
 だけど、また彼と過ごすきっかけが生まれたのだから、悪い話ではないと思えてしまうあたり、惚れた弱みだろう。

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