秘密の恋は1年後
「……ええっ!!」
数秒フリーズしていた姉が、やっと動いたと思ったら、エントランスに声が響いた。場違いな声に視線が集まったけれど、姉がすぐに頭を下げて事なきを得る。
「……うるさ」
片耳を塞ぐ尚斗さんは、ゆっくりとまばたきをひとつ。
それから私を見下ろして、小声で呟いた。その声は、普段とは違う彼の本性の片鱗そのものだ。
「社内の誰にも話していませんから、お願いしますね? これは、弊社のトップシークレットです」
「か、かしこまりました」
「盆休みの間に、私の両親とは顔を合わせましたので、いずれは麻生さんのご実家にもお邪魔します。それから、今は私の家で一緒に暮らしていますので、そのあたりもご理解ください」
「はい……」
いつになく、姉が動揺を隠せないままで受け答えをしている。ふと彼女と目が合ったけれど、まだ信じられないでいる様子だ。
「それでは、また明日。まひるさんは、また後で」
ふんわりと微笑んだ彼が、エレベーターに乗り込むまで見届けた私たちは、ドアが閉まったところでようやく息をつく。
それから駅前のカフェで、姉が納得するまで経緯を話すことになったのは、予想通りだった。