秘密の恋は1年後

 オフィス階もあるビル内には、終業後の社会人の姿が多い。時々見かける私服にリュックサックの人たちは、おそらく旅行で訪れているのだろう。


「いらっしゃいませ」
「待ち合わせをしているのですが……」
「千堂さんですね。お待ちになられていますよ」

 出迎えてくれたのは、以前一度会ったことのある立花さんだった。私を覚えていてくれたようで、すぐに案内してくれる。
 今日も着物姿で、はんなりとした雰囲気の彼は、所作もやわらかくてとても上品だ。


「お連れ様をご案内しました」
「ありがとうございます」

 奥の個室で待っていてくれた彼は、遅れてやってきた私を見るなりとても嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。


「お疲れ様。仕事、大丈夫だったか?」
「は、はい。終わらせてきました」
「そうか、ありがとう」

 だけど、彼の向かい側には見知らぬ男性が座っている。
 ふたりきりで食事をするのだとばかり思っていたので、動揺しつつも会釈した。

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